本研究は、明治中期に作成された近代的天竜川河川測量図を基本として、水制、堤防、荒地、耕地、集落などの周辺土地利用から、河川周辺土地利用モデルをGISによって再現し、伝統的な水・土地利用技術が有する河川管理上の効果と限界を検討することを目的とする。 最初に、オランダ人技術者のデレーケ等によって作られた河川測量図を検討の上、河道や澪筋の変動が大きい天竜川中流部(飯田市付近)と霞堤が現存する三峰川下流部(高遠町から伊那市)を、詳細な解析対象域として選定した。 選定対象域での土地利用と河川との関連を検討するために、(1)明治期河川測量図を基盤としたGIS化、(2)異なる時代の旧版地形図、空中写真の位置補正・オーバーレイ化を試み、(3)統一した地理座標をもつ多時期インベントリ・データベース(DB)の作成を進めている。 本DBの基本資料の統合によって、天竜川中流部対象域においては、河道狭窄部にあたり、澪筋が大きく蛇行し、河道と周辺土地との境界もはっきりせず、荒地、湿地、あるいは水田などの土地利用が混在すること、さらに三峰川の対象域においても、澪筋が大きく変動し、その周辺がほとんど氾濫原となっていることが判明した。明治期には、断片的な石積み・土の堤防、霞堤のような河川工作物があるものの、大きな連続堤防もない結果、暴れ天竜が躍動的に振舞い、河道と周辺土地が混然一体としていたと考えられる。しかし、近年になると連続堤防の完成によって、河川と周辺土地の隔離・分断が起こり、農地、宅地などの土地利用の高度化が急激に進む一方、河道の縮小やその樹林化の進行が著しいことが確認できた。 GISによる多時期DB作成によって、河川と周辺土地利用の歴史的特徴が総観的に把握できるようになった。引き続き、河川周辺の地形や景観をも含めて、土地利用と河川管理の関連・特質を定量的に検討する予定である。
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