草資源による良質な牛肉生産は一般に難しいと考えられている。反芻類家畜の栄養摂取機構ではルーメンでの微生物による粗飼料中の繊維性植物多糖の分解に時間を要する。濃厚飼料多給に比べ粗飼料の栄養吸収は緩慢で効率が悪い。しかし、わが国の環境問題や消費者への家畜を通じたBSE等伝染病流入の危険性を考えるとわが国の草資源による安心・安全な新奇牛肉生産システムの開発が急務である。このようなシステムの構築にはこれまでの輸入穀物飼料による飼養に適した牛を育種するのではなく、草資源からの栄養吸収に優れた、あるいは草嗜好性の高い牛を選抜育種していくことが必要不可欠である。放牧形態により飼養されている繁殖牛は、通常痩せているが、その中には草のみの飼養にもかかわらず、かなり肥満している個体も見られる。このような個体がどのような栄養生理的および産肉生理的な特徴を有しているのかを探ることは、草資源による牛肉生産システム開発のためには必要不可欠であり、非常に興味深いモデルである。本研究課題では、放牧により肥満する牛群と痩身牛群について、まず血液サンプルについてインスリン様成長因子、ストレスホルモン等の解析を行ったが、それらの牛群間に有意な差異は認められなかった。また、バイオプシー筋サンプルを用いて、脂肪細胞分化制御因子群の発現を解析したが、体格のよい個体で遺伝子発現レベルが高い傾向が認められた。
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