研究概要 |
本年度は、マウスXY生殖幹細胞をXX精巣へ移植し、XX精巣の精子発生能について検討した。哺乳動物の性は、Y染色体上の精巣決定遺伝子であるSryの有無により決定され、Sryを導入したXX(XX/Sry)マウスは、精巣と雄型の内外性器を持つ雄個体へ発達する。しかし、XX/Sry精巣も含め、全てのXX雄マウスは、生殖細胞側の異常(2コピーのX染色体の存在)により、生後すぐ生殖細胞が消失し,不妊となる。そのため、現在のところ、XX精巣の体細胞環境が完全な精子発生を誘導できるかどうかは明らかとされていない。そこで、我々は、XX/Sry雄マウス、対照群としてW/W^v雄マウス(XY)の各精細管に生後約1週齢の正常雄マウスの精巣から調製したXY生殖幹細胞を移植し、各精巣で定着したXY生殖細胞の精子発生の動態について解析を行った。その結果、生殖幹細胞を移植したW/W^v精巣では正常な精子発生が誘導されたのに対し、XX/Sry精巣では、精母細胞までの分化は確認できたが、大部分の円型精子細胞は、Step7に至るまでに脱落、核濃縮が認められ、正常な伸長型精子細胞は、全く認められなかった。XX精巣における精子発生異常の原因を探索するべく、定着した生殖細胞とセルトリ細胞の形態異常を電子顕微鏡レベルおよび組織化学的に詳細な解析を行ったところ、円形精子細胞に接したXX/Sryセルトリ細胞において異所的にectoplasmics pecializationの過形成が起り、高度にF-アクチンが蓄積していることが明らかとなった。以上の結果から、XX精巣の体細胞環境は、移植XY生殖幹細胞を精母細胞まで分化誘導することはできるが、円型精子細胞の維持、伸長型精子細胞への分化誘導を支持できないことが明らかとなった。さらに、その一つの要因として、円形精子細胞とセルトリ細胞間の接着機構の異常が強く示唆された。
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