本研究は、ブタの精巣から幹細胞を分離するとともに、得られた細胞を体外で長期的に培養し、幹細胞培養株からの効率的な遺伝子導入技術への応用を目指している。 これまでにも、精巣に由来する細胞を利用した同種の試みは多いが、それらの細胞を体外で培養しても多くの場合体細胞の混入によって細胞分化が起こり、長期的な細胞培養は困難であった。それを困難にしている要因は、精巣に由来する幹細胞を体細胞と見分ける特異的なマーカーはなく、唯一、細胞の形態的特長によって判断するしかなかったことによる。従って、精巣から細胞を分離しても、それがどんな種類の細胞であるのか明らかではなかった。これまでに、精巣から分離した細胞から未分化細胞マーカーや未成熟な精子で発現しているマーカーを中心に幹細胞特異的なマーカーを検索してきたが、マウスの精巣由来の細胞では反応が見られても、ブタでは幹細胞の特定が難しかった。そこで、本年度は出生直後の子豚の精巣を用いて、始原生殖細胞のマーカーであり、レクチンの一種であるDolichos biflorus agglutinin(DBA)を用いたところ、DBAは形態的に精原細胞としての特徴をもつ細胞だけに特異的に結合するとともに、多くの体細胞マーカーや未分化細胞マーカーとは結合しないことが明らかになった。さらに、DBAの結合は、出世以後の時間の超過とともに消失することから、DBAと特異的に結合している細胞は、精原細胞の中でも特に未熟な幹細胞を認識していると考えられた。また、精巣からこれらの幹細胞を分離する方法についても検討を進め、パーコールの濃度勾配遠心法によって70%の精度で幹細胞が精製できることが明らかになった。これらの細胞をDMEM/F12培地で培養すると、活発に細胞増殖を維持し、少なくとも培養後7日間は体外での培養が可能になった。また、このようにして培養した細胞は、DBAの結合能を有しており、幹細胞としての性質を維持していると考えられた。次年度は、精製した精巣由来の幹細胞について、さらに体外での培養条件と遺伝子導入についても検討を進める予定にしている。
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