嗅神経細胞における細胞内カルシウムイオンの動態と役割に関する研究に着手した。研究結果の概要は以下の通りである。 嗅神経細胞の単離:ラットの鼻中隔を摘出して左右を覆う嗅上皮を剥離後、嗅神経細胞の単離を行った。初めに細胞に対する傷害作用が比較的小さいコラゲナーゼを用いて濃度・消化時間を変えて分離を試みたが、満足な結果が得られなかった。またヒアルロニダーゼを添加しても、分離効率は上がらなかった。広く用いられているタンパク質分解酵素のパパインに変え、2価陽イオンを除去した生理的緩衝液で分離したところ、比較的良好な分離を行うことができた。ただし、この時、機能タンパク質も少なからぬ傷害を受けている可能性も考慮する必要がある。このため、今後はパパインを用いることとした。嗅神経細胞は、繊毛を持つ嗅小胞とそれに続く1本の樹状突起と細胞体、および神経軸索から構成されるが、その構造的特徴から、きわめて破壊されやすく機械的分離操作を慎重に行ったにしても健常な細胞が得られる効率は良くないが、中でも良好な細胞のみを選別して実験を行った。 画像解析法の確立:単離された嗅神経細胞にカルシウム感受性蛍光指示薬のfluo-4を負荷し、蛍光顕微画像解析装置を用いて、細胞内カルシウムイオン濃度変動を捉えることができた。高濃度K+緩衝液で単離嗅神経細胞を灌流したところ、細胞内カルシウムイオン濃度が急激に上昇した。このことから、電位依存性のカルシウムチャネルの存在が推測された。細胞外からカルシウムイオンを除去すると、カルシウムイオン濃度の上昇が消失したことから、細胞外カルシウムイオンの流入が主なソースであると考えられた。 パッチクランプ法の確率:単離嗅神経細胞でパッチが比較的容易なのは細胞体であるが、目標は嗅小胞でのパッチ作製である。繊毛が存在することがギガシールの形成を拒むので、今後は別の手法を考慮したい。
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