鹿児島県下でマダニ(Haemaphysalis hystrics)から分離されたトリパノソーマ原虫(KG-1株)の分類学的位置づけならびに哺乳動物に対する病原性を検討するため以下の実験を行った。本原虫は培養された原虫を実験動物(マウス、ラット、ウサギ)ならびに中動物(ヒツジ)の静脈内、腹腔内に接種し、病原性を調べた。接種後1-2ヶ月にわたり末梢血液中原虫ならびに血液からの原虫DNAのPCR増幅で感染性を検討したが、これらの哺乳動物種に対する感染性は確認できなかった。さらにマダニによるトリパノソーマ原虫の媒介性(機械的、生物学的)を検討するため、マダニ(Ornithodoros moubata)に血流型Trypanosoma congolense を接種し、ヘモリンフを定期的に採取し、その中の原虫を形態学的に観察しところ、一定期間原虫が確認でき、昆虫型(epimastigote)に形態が変化していた。 KG-1株の分類学的位置づけはsmall subunit ribosomal RNA遺伝子ならびにITS部位をPCRで増幅し、それら塩基配列を決定することで検討した。その結果、非病原性トリパノソーマの一種であるT.lewis(ラット由来)などと近縁であるが新種である可能性が高いと推定できた。今後本原虫の哺乳動物の自然宿主を明らかにするため、前記動物種以外に接種して感染性を明らかにする必要がある。特に犬あるいはいのししが本マダニの好適宿主であることから、これらを中心に検討を進める。
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