in vivoおよびin vitroの手法に加えて、コンピューター内で生命現象を再現し解析する方法(in silico)が広まりつつある。本研究は老人斑形成過程を人工生命プログラムを用いてシミュレートし、「老人斑は何故動物種により形態を異にするのか」について考察するものである。 人工生命プログラムとして、2次元セルオートマトンを利用したLifeLab3.6とアグリゲーションモデルを利用したAggregation2.1(いずれもフリーウェア)を用いた。これらのプログラムによりコンピューターのディスプレイ上に老人斑の形態を模した画像を作成し、これをin silico老人斑とした。完成したin silico老人斑の形態評価にはフラクタル次元(FD)を用いた。 いずれのモデルでも、初期値と遷移条件を様々に設定し、プログラムを動作させたところ、低FD老人斑(FD=1.3-1.5)と高FD老人斑(FD=約1.6)の2種類のin silico老人斑が形成された。これらの遷移条件を検討したところ、「FD値が低いほど隙間を埋めないで成長する性質が強い」ことがわかった。実際のin vivo瀰漫型老人斑のFDはネコが1.4-1.5、イヌ、ヒト、サル、クマ、ラクダでは1.6-1.7であり、前者が低FD老人斑、後者が高FD老人斑に相当した。 ネコの瀰漫型老人斑は他の動物種の老人斑と比べて疎な形態を示し、そのFD値も低い。本研究の低FD in silico老人斑はin vivoでのネコ老人斑に相当すると考えられた。低FD老人斑の「隙間を埋めない成長性」という性質から、ネコの老人斑ではβアミロイドが沈着する一方で分解されていく過程が推測された。この理由としてネコにおけるβアミロイド分解酵素(ネプリライシン)活性の特殊性などが考えられた。 上記の成果は現在投稿論文作成中である。
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