研究概要 |
2005年にラット視床下部より36個のアミノ酸残基からなる新規ペプチド、ニューロメジンS(以下NMS)を同定した。このペプチドは、摂食抑制ペプチドとして知られるニューロメジンUと同じ受容体(FM-3、FM-4)に作用する。今回、児島らによってノックアウトマウスが作成されたので、その表現系を解析した。その結果、体重、摂食量、行動量、リズムおよび学習能力にはワイルドマウスと大きな差は認められなかった。しかし、ノックアウトマウスの心拍数がワイルドマウスに比べて有意に低下していることが判明した。この心拍数の低下が、NMSの心臓への直接作用によるものか、その他の部位への作用によるものかを調べる為に、心臓でのFM-3,FM-4受容体mRNAの発現の有無およびNMS自体のmRNA発現の有無をPCRで検討した。その結果、FM-3mRNAがわずかに発現していたものの、FM-4およびNMSのmRNA発現は確認できなかった。このことからノックアウトマウスの心拍数の低下は、NMSの心臓への直接作用によるものではないと考えられた。そこで、交感神経遮断薬のTimolol、及び副交感神経遮断薬のmethylscopolamineを用いて自律神経を遮断し、中枢からの心臓制御に対するNMSの関与を調べた。その結果、交感神経を遮断した時のノックアウトマウスの心拍数増加率はワイルドマウスに比べて大きく、副交感神経を遮断した時のノックアウトマウスの心拍数減少率はワイルドマウスに比べて少なかった。このことから、ノックアウトマウスでは自律神経系のトーンがワイルドマウスと異なっていることが推測された。以上の結果、NMSは循環器系に対して、心拍数の調節に関与している可能性が示唆された。また、この調節は心臓への直接作用では無く、自律神経系に対する作用と推測された。
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