ニホンイノシシの生息数は、西日本を中心に急増し、個体数の増加とともに、中山間地域での農作物の被害も増加の傾向にある。野生イノシシの個体数の増加と共に、家畜ブタと野生イノシシをかけ合わせたイノブタ牧場からの逃げ出しや放獣により、野生イノシシの中に家畜ブタ遺伝子が流入し、資産数の増加や家畜ブタが有する各種感染症の増加が懸念されている。本研究は、野生イノシシ中から家畜ブタ遺伝子を有するイノブタを識別する遺伝的手法を開発すると共に、野生イノシシ中に浸透しつつある家畜ブタ由来感染症の汚染状況を評価するものである。本年度は、以下の成果を得た。 1)遺伝的指標の検索:ミトコンドリアDNA(mtDNA)のコントロール領域572bpをPCR法にて増幅後、DNAシークエンスを行い塩基配列を決定して、これまでのデータベースと比較した。64頭の野生イノシシは、J1〜J18遺伝子型に分類された。家畜ブタ由来の遺伝子型は検出されなかった。イノブタ牧場由来のイノブタは全てヨーロッパ系のJ30とJ40を示した。核遺伝子(GPIP)の型別では、野生イノシシの一部で4型や4a型の家畜ブタ由来の遺伝子型も検出された。調べた23頭のイノブタの多くは家畜ブタ由来の4型を有していた。 2)糞からのDNA分離と型別:野外試料からのイノブタの検出手法として、糞からDNAを分離してmtDNAとGPIP遺伝子を型別した。糞便9サンプルからmtDNAの572bpの全長をPCRで増幅することを試みたが、572bpの増幅は出来なかった。ただし、572bpを3分割した200bp程度の増幅は可能であった。 3)家畜ブタ由来感染症の汚染調査:イノシシ血清に関して豚コレラ、オーエスキー病、E型肝炎、に関する抗体価を測定した。その結果、豚コレラとオーエスキー病に対する抗体価は検出されなかったが、E型肝炎に関しては、一部の野生イノシシで検出された。今後とも検体数を増やして検討する必要があろう。
|