根圏土壌から回収される極めて少量のDNAをMDA(Multiple Displacement Amplification)法を用いて全てのDNAを十分に増幅する技術を確立した。得られた根圏土壌と根圏外土壌のDNAを用いて、SSH(Suppressive Substractive Hybridization)法によって根圏土壌に多く存在している遺伝子を獲得し、この解析を進めた。解析には理化学研究所の協力によりパイロシーケンス法を導入することによって約400万bpの塩基配列を極めて短時間で決定することが可能となった。この手法を用いてルーピンの同じ植物体の中で成熟したクラスタールート部、若いクラスタールート部、クラスタールートの形成の認められない根部の三カ所を対象とした比較メタゲノム解析を実施した。その結果、特に成熟したクラスタールートにはそこにのみ顕著に存在が認められる遺伝子が多く存在していることが明らかになった。これらの遺伝子のアノテーションは部分的にのみ可能である。rRNA遺伝子の配列情報に基づき、全ての配列(約400万bp)を対象として調査した結果、帰属する生物種からは成熟したクラスタールートにおいては細菌由来の遺伝子よりは菌由来の遺伝子が多くなる傾向が認められた。その一方で、rRNA以外の機能既知の遺伝子に関して得られた情報は極めて限定的であり、そのデータのみで根圏特有の微生物の機能の解明にはいたらなかった。さらに詳細な情報の収集と解析手法の開発が必要であった。また、多くの機能未知の遺伝子が見いだされ、これらの中には植物と微生物の応答機構に関与していることが予想される遺伝子もあると予想された。
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