本研究では、牛ふん尿を主原料とする堆肥(好気発酵)およびメタン発酵消化液(嫌気発酵)を対象に腐植物質の量と質を調べ、とくにアルカリ抽出および水抽出される腐植物質(腐植酸とフルボ酸)の量および光学的特性、消化液から水抽出された腐植物質が植物の生育や生理活性に及ぼす影響などについて明らかすることを目的とした。その結果、堆肥および消化液のいずれについても発酵に伴って腐植酸の相対色度(RF値)が高くなり、腐植化が進んだ二次的な腐植物質の増加が示唆された。とくに、メタン発酵消化液では水抽出腐植酸がアルカリ抽出腐植酸よりも極めて相対色度が高く、その量は発酵温度が高い消化液で顕著に多かった。また、消化液は原料ふん尿と比べて水抽出フルボ酸のカルボキシル基構造が発達していることが認められた。好気発酵および嫌気発酵のいずれについても牛ふん尿の堆肥化と腐熟化に伴って"腐植化"が進行することが認められ、その影響はアルカリ抽出よりも水抽出される腐植物質でより顕著であった。消化液から得られた水溶性腐植酸およびフルボ酸についてLapidium sativumを用いた生物検定を行った結果、明瞭なオーキシン様作用は認められなかった。これは水溶性腐植物質が様々な化合物の複合体であることに起因すると考えられた。Brassica rapa var.peruviridisを用いた根の伸長阻害に関する検定では、原料の乳牛ふん尿から得られた水溶性腐植酸では阻害効果があったが、消化液の水溶性腐植酸では高濃度でも阻害効果が認められず、むしろ根の伸長を促進する効果があった。堆肥化や発酵を経た牛ふん尿から水抽出される腐植物質には植物の生理活性に影響を及ぼす可能性が示唆されたが、今後は水溶性腐植物質の分子サイズによる分画や他の生物検定などによる詳細な検討が必要であると思われる。
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