【目的】増殖糖尿病網膜症(PDR)では、硝子体に増殖膜と呼ばれる繊維性の組織が形成され、これを足場として硝子体上に新生血管が伸長してゆく。増殖膜は硝子体を収縮させるため、失明の引き金となる硝子体牽引の原因の一つと考えられているが、硝子体上での増殖膜の形成過程や、血管内皮細胞の増殖状態を再現できるモデルは現時点では知られていない。本研究ではPDRにおける増殖膜形成や硝子体牽引の機構を解明するための実験系を開発するため、新鮮で形態が整っており、取扱いの容易な鶏胚硝子体を用い、培養ウシ血管内皮細胞株ECV304を硝子体上で培養することを試み、その際、硝子体にどのような変化が観察されるかを検討した。 【方法】18日齢鶏胚から得られた硝子体に細胞を加えた後、37℃で3時間、穏やかに回転培養を行い、硝子体表面に細胞を付着させた。これら細胞の付着した硝子体を取り出し、硝子体から付着していない細胞を洗い流した後、一定時間培養した。培養後、硝子体の重量を測定し、^3H-チミジンの取り込みによる細胞増殖能および可溶性ホルマザンを用いた吸光度法により細胞数の算定を試みた。また、顕微鏡下で細胞の接着状態を観察した。 【結果】硝子体に細胞を付着後、90時間まで培養したところ、作用させた細胞数が多いほど硝子体体積が減少した。しかし、顕微鏡的観察および培養した硝子体を前部と後部に二分し、吸光度法で細胞数を測定したところ、細胞の接着、増殖部は硝子体前部に限局していた。 【考察】鶏胚の硝子体上で血管内皮細胞株を培養することができた。この際、観察される硝子体の体積減少は、硝子体上で細胞が増殖した結果と考えている。硝子体表面の細胞接着性は前部と後部で異なり、後部に比べ、前部の方が細胞接着性が強いことが明らかとなった。PDRと関連する硝子体後部への細胞接着は、正常な硝子体では起こらないことから、来年度は血管透過性の亢進などによる影響を考慮した実験系の開発を行う。
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