研究概要 |
抗癌作用をもつ天然物を検索する過程で、digitoxin(以下、DTXと略す)などの強心配糖体に、HL60細胞などのヒト白血病細胞などに対する細胞毒活性を見出した。そこで、HL60細胞のどういう成分と相互作用するかを検討するために、まず、DTXに対するモノクローナル抗体を作製し、それをビオチン化することによってDTXで処理したHL60細胞におけるDTXの分布を調べることにした。予備実験として、抗体によるDTXの細胞毒性の中和効果を確認したが、予想に反して、ビオチン化抗体では逆にDTXの細胞毒性を増強した。このことは、DTXとそのビオチン化抗体を併用すれば、DTX単独よりも効果的な抗癌剤が可能であることを示唆しており、今回の萌芽研究の眼目でもある。しかし、今年度の研究により、ビオチン化抗体よりも溶媒として使ったPBSに細胞毒性増強効果が見出されたので、各種陽イオンが細胞毒性に与える効果を検討した。その結果、K+/Na+の比が大きいほどDTXの細胞毒性が減弱されることがわかった。一方、Staurosporinなどの他のアポトーシス誘導剤はDTXほどはK+/Na+の比の影響を受けなかった。このことはDTXのHL60細胞上のターゲットがNa+,K+-ATPaseであることを示唆している。以上の実験と平行して、昨年度の研究でDTXが癌細胞のどのような成分と相互作用をするか検討するために、癌細胞を界面活性剤で可溶化してから、DTXカラムを用いたアフィニティクロマトを行い、SDS-PAGEで、DTX親和性分画をゲル内消化し、LC-MSにかけることにより、DTXがチュブリンと相互作用している可能性が推定されたが、再度、カラム内の樹脂の活性基をブロッキングミルクなどでマスクするなどの工夫をしてやり直す必要がある。一方、Bodipy DTXとHL60細胞との結合はK+/Na+の比にあまり影響を受けないので、DTXの抗癌作用がNa,K-ATPase阻害に基づくと考えられるのは、まだ、早計と考えられる。今後は、この点を明らかにすることを目的とし、DTXと相互作用をするHL60細胞成分を検索したい。また、それを土台として、DTXの細胞毒性が細胞種によって大きく異なる原因を明らかにしたい。
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