研究概要 |
これまで脂質は単に細胞膜の構成要素とのみ考えられてきた。しかしスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の細胞間情報伝達物質として機能が大きく注目されてきた。われわれはS1Pの細胞内での役割を明らかにするため、生理活性セラミド・スフィンゴシン誘導体を新規合成し、それらをプローブとして細胞死あるいは生存のメカニズムを探索し、新たな選択的細胞死保護剤又は促進剤の開発を目的として研究を行った。 光学活性ガーナーアルデヒドを出発原料としフェニル化、2級アルコールの酸化、自明日テレを選択的還元を経て光学活性2-アミノ-3-フェニルプロパン-1,3-ジオール誘導体を合成した。1位水酸基をスルファミン酸とした誘導体およびリン酸エステルとした誘導体の合成に成功した。 新規合成した各スフィンゴシン-1-リン酸誘導体の薬効評価を培養神経細胞PC12細胞を用いて行った。S1Pに比較して、より低濃度で神経細胞死を促進する化合物を見出した。この細胞死にはクロマチン凝集やDNA断片化を伴ったアポトーシスも観察された。また,この化合物によるアポトーシスは「S1P受容体-p38 MAP kinase-シトクロムc放出-カスパーゼ活性化」のシグナル系を介していることを明らかにした。 また内在性にも生成される,セラミドのリン酸化代謝物セラミド-1-リン酸が直接的にcytosolic PLA2alphaを活性化しアラキドン酸放出を促進すること、またプロテインキナーゼCを活性化する経路によってもアラキドン酸放出を促進することを見出した。 これらの結果は、スフィンゴシン、セラミドの誘導体が神経細胞死やアラキドン酸代謝すなわち炎症などを制御する物質となりうることを示している。現在、さらに各種の誘導体合成研究とその細胞レベル薬効評価を行っている。
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