研究概要 |
メチル水銀毒性の発現機構は不明のままであり,解明のための糸口さえほとんど得られていない。近年、siRNAを用いた遺伝子ノックダウン法が飛躍的な発展を遂げているが、最近になって約30,000といわれているヒト遺伝子の中で機能の分かっている約8,500の遺伝子を一つずつノックダウンするという画期的な応用例が報告された。そこで本研究では、メチル水銀毒性の分子メカニズム解明を目指し、この最新の報告で用いられたsiRNAライブラリーを利用して、欠損することによってメチル水銀感受性に影響を与えるヒト遺伝子群の同定を試みた。まず、様々な条件下での検討により、至適検索条件を確立した。その方法用いて、ノックダウンによってヒト胎児腎由来培養細胞(HEK293細胞)のメチル水銀感受性に影響を与える遺伝子群を検索した結果、ornithine aminotransferase、chemokine ligand 2、transglutaminase4、glutamate receptor metabotropic6、regulator of G protein signaling1、TBP-associated factor RNA polymerase II、 enolase 2およびphosphoenolpyruvate carboxykinase 1の8種の遺伝子が同定された。この中でenolase 2およびphosphoenolpyruvate carboxykinase 1は共にピルビン酸合成に関わる酵素であることから、ピルビン酸濃度の変動がメチル水銀毒性に影響を与える可能性が考えられた。そこで、ピルビン酸の培地中への添加がメチル水銀毒性に与える影響をヒト神経芽腫細胞を用いて検討したところ、ピルビン酸がメチル水銀毒性を顕著に増強させることが初めて明らかとなった。
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