研究概要 |
変異原性の比較的高いベンゾ[a]ピレン(BaP)を選択し、血液試料から白血球を分離し、DNAを抽出し酵素分解して3'-モノヌクレオチドを取り出し、さらに濃縮操作を経て得られる10-(deoxyguanosin-N^2-yl)-7,8,9-trihydroxy-7,8,9,10-tetrahydrobenzo[a]pyrene(dG-BPDE)をBaP-DNA付加体の分析対象化合物としてLC-MS/MSの条件検討を行った。分子量関連イオンをプリカーサーイオンとしてMS/MSスペクトルを得たところ、グアニン残基が脱離したイオンが観察され、このイオンを効率よく生成させるように、移動相条件、電圧等を最適化した。 次に、試料を得るまでの試料の前処理法を確立するため、培養細胞を用いて条件検討を行った。ディッシュ10枚程度に細胞を播種し、24時間培養後BaPを添加した。培養後細胞を回収し、遠心して得られたペレットに含まれる2×10^7個の細胞を用いて抽出キットを用いたDNA抽出を行ってDNAを得た。DNA中のBaP付加体の測定には、操作が簡便で比較的高濃度試料の定量に適した蛍光検出-HPLC法を用いた。上述のように細胞から抽出したDNAに塩酸濃度が0.1Mとなるように加え、90℃で4時間加熱して酸加水分解反応を行った。その後1M水酸化ナトリウム溶液で中和してHPLC用サンプルとし、生成したBaP-テトロールを測定した。その結果、発がん作用の本体として知られる代謝生成物のanti-BPDEに由来するテトロールを検出することができた。細胞のBaP処理24時間後からBPDE-DNA付加体が観察され、処理時間に依存して付加体量の増加が見られた。従って、ヒトの血液サンプルに確立した前処理法を適用し、LC-MS/MSを用いて高感度・高選択的にdG-BPDEを検出することが次年度の課題となる。
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