1、Bcl-11bノックアウトマウスの脂肪細胞の分布異常が全身に及ぶものか否か、ノックアウトマウスの全身の脂肪細胞の分布をズダンIII染色で調べた。その結果、脂肪細胞が正常マウスと比較して極端に少ないのは皮下脂肪だけであり、毛胞の脂腺や褐色脂肪組織、筋肉内の脂肪滴は正常マウスと同じ程度に分布しており、皮下に脂肪細胞が無いか、脂肪を蓄積していないだけかのどちらかの可能性が示唆された。 2、そこで、Bcl-11bノックアウトマウスの皮膚を皮下組織と共に発生初期のニワトリ胚子の中胚葉に移植した。移植した皮膚の皮下組織相当部位に大量の脂肪を貯めた脂肪細胞が現れ、脂肪細胞はBcl-11bノックアウトマウスの体内で分化しているが脂肪を貯めていないだけの可能性が出てきた。 3、それでは発生のどの時期から脂肪の貯留が止まっているのか胎児を経時的に固定しズダンIII染色を行って調べた。その結果、ノックアウトマウスは出生前から皮下に脂肪を貯めた細胞が現れないことが無いことがわかり、基礎代謝異常が考えられた。 4、そこで基礎代謝に関わる臓器として考えられる甲状腺と下垂体におけるBcl-11bの発現を蛍光抗体法で観察したところ、正常マウスの甲状腺細胞の細胞質に蛍光が検出され、ノックアウトマウスには検出されない所見を得、甲状腺に発現したBcl-11bのノックアウトによる結果が示唆された。 5、さらに正常マウスとノックアウトマウスの甲状腺の光顕組織像を比較したところ、正常マウスの甲状腺濾胞は内腔の狭い小型の濾胞の集合であったのに対し、ノックアウトマウスの濾胞腔は広く大きな濾胞の集合体である傾向があった。 6、また出生後約20℃の室温に8時間放置された正常マウスとノックアウトマウスの脂肪細胞の動態を比較し、環境の変化による脂肪細胞分布変化を調べた。骨格筋の脂肪滴は正常マウスのからもノックアウトマウスからも減少、あるいは消失した。正常マウスの皮下脂肪は小粒になっていたがノックアウトマウスの皮下に脂肪を貯留した脂肪細胞が現れるという興味ある所見を得た。 以上の結果をふまえ今後は、(1)以前電子顕微鏡確認されたノックアウトマウスの褐色脂肪細胞に油滴が全く無いのは出生前からなのか固定されるまで放置されていた結果なのか確認する。(2)蛍光抗体法による甲状腺の観察は蛍光が弱く、十分な所見ではないので再度正常マウスの甲状腺でBcl-11bの発現を確認するとともに、生化学的に分析する。
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