本研究の最終の目標は、分子間相互作用を液中原子間力顕微鏡(Atomic force microscopy ; AFM)によって直接しかも動的にイメージングすることにある。本年度はその基礎データを得る意味で、分子同士を反応させた前後の状態を、大気中の環境の下でAFM観察することを試みた。同時に、液中AFMイメージングについて、測定条件の検討を行った。 具体的には、まず、ラムダファージDNAを劈開したマイカの上に付着させ、大気中でAFMの観察を行った。その際、DNAの1本1本を観察するためには至適な濃度にDNAを希釈する必要があり、蒸留水で希釈する濃度を検討した結果、線状のDNAがコイルドコイルの状態を呈したものや、ややほどけた状態のものなどさまざまな形態をAFMで明瞭に観察することができた。つぎに、ラムダファージDNAを制限酵素Apa Iと反応させた後の状態を同様の条件で観察した。この制限酵素はラムダファージDNAを一箇所でしか切断しないが、反応後の形態はコイルドコイルの状態がよりほどけたものが多く観察され、DNAはより直線状の形状を示すものが多かった。しかし、ラムダファージDNAはAFMで解析するには長すぎて、反応前後の長さの変化を解析するにはより短いDNAを用いるほうがよいことがわかった。さらに、液中AFM観察法について検討し、生体試料の高分解能観察に適した測定モードの条件とカンチレバーの条件の基礎データを得た。 以上、本年度は、大気中でのAFMによるDNAと制限酵素の反応前後のイメージングの基礎データが得られた。この結果により、今後DNAと制限酵素の種類の検討を行って、液中環境でのそれらの相互作用のAFMによるイメージングに発展させていく足がかりが得られた。
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