我々の研究グループでは、小胞体の細胞内Ca2+ストアとしての機能に着目し、そのCa2+の取り込み、保持、細胞質への放出などの機能に関与する分子の解析を手掛けている。以前遂行した小胞体に分布する新規タンパク質のスクリーニングにて、CSNと名付けた膜貫通分子が単離されている。本研究においては、CSNの生理的な機能を解明することが主目的である。平成17年度には以下の2つに大別される実験を遂行した。 1)CSNの生化学的解析:小胞体内腔に存在するドメインには酸性アミノ酸残基が豊富に見い出されて、Ca2+結合活性が示唆される。このドメインを大腸菌にて組み換えタンパク質として発現させて、種々のCa2+結合活性実験に用いた。Ca2+結合タンパク質に親和性の高いStain-allによる染色ではこの内腔ドメインが強染されることが示され、放射能ラベルのCa2+を用いた結合実験にて明確なCa2+結合能が確認された。従って、CSNは小胞体内腔側の新規Ca2+結合タンパク質である。一方、酵母2ハイブリッド法にて細胞質ドメインに結合する細胞質タンパク質を検索したものの、有望な分子は得られていない。 2)CSN欠損マウスの作製:遺伝子産物の生理的機能を検討するために、ノックアウトマウスの作製を遂行した。得られたCSN欠損マウスは、約70%の個体が胎生期に、30%の個体が新生期に致死性を示した。直接の死因は現在不明である。CSN胎児より線維芽細胞(MEF)を調製し、細胞内Ca2+シグナリングを検討するため蛍光Ca2+測定を行なった。CSN欠損MEFの小胞体含量は、コントロールに比べて明らかに低いことが明らかになった。この事実は上記のCSNの小胞体内腔側でのCa2+結合が、生理的な小胞体Ca2+保持能に寄与していることを示しているものとして、注目される。変異マウスの致死性を明らかにするために、現在組織学的解析を中心に実験を予定している。
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