研究概要 |
AMPキナーゼは、酵母、植物、動物におけるほとんどの細胞に発現するセリン/スレオニン・キナーゼである。私どもは最近、グルコースやホルモン(レプチンやインスリン)によって視床下部AMPキナーゼの活性が低下し、その結果、摂食促進ニューロンに調節作用を営んで摂食行動を抑制することを報告した(Minokoshi Y, et al.,Nature 428:569-574,2004)。本研究は、摂食行動を調節する視床下部AMPキナーゼの分子機構を明らかにする目的で、視床下部AMPキナーゼと相互作用し、AMPキナーゼの活性化に関わる分子、AMPキナーゼの標的分子を探索した。 視床下部AMPキナーゼは、マウスにおいて、絶食すると活性が増加し逆に再摂食によって活性が低下することが明らかとなっている。そこで絶食(1日)と再摂食(3時間)させたマウスの視床下部抽出液を作製し、これに活性型AMPキナーゼを混ぜ、一定時間後incubateした後、特異的flag抗体を用いて活性型AMPキナーゼを免疫沈降した。そして、その沈降物を電気泳動によって分離することにより活性型AMPキナーゼに結合する蛋白質を調べた。その結果、分子量約90kDaの蛋白質が活性型AMPキナーゼと特異的に結合し、しかも再摂食によって活性型AMPキナーゼとの結合が減少することを見いだした。さらに興味深いことに、神経細胞株(SH-SY5Y:レプチン受容体を発現し、レプチンによってAMPキナーゼ活性が低下する)においてもこの蛋白質は活性型AMPキナーゼと特異的に結合し、レプチンによるAMPキナーゼ活性の低下に伴って結合が減少することがわかった。このことからこの蛋白質は、視床下部AMPキナーゼの活性に何らかの調節作用を及ぼす制御因子か、あるいは視床下部AMPキナーゼの標的分子である可能性が高い。現在、この蛋白質の一次構造を調べている。
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