蛍光タンパクCa^<2+>センサー遺伝子を発現させた視索前野スライス培養を用い、Ca^<2+>イメージング実験を行なった。まず、ヒスタミン受容体の刺激実験を試み、(i)ヒスタミン1-100μMは用量依存的に内側視索前野(mPOAH)ニューロンの細胞内Ca^<2+>を増加させること、(ii)H1ブロッカーであるクロロフェニラミンの投与が、このCa^<2+>応答を抑制すること、また、(iii)ヒスタミン応答性ニューロンの多くは5℃の温度変化(5℃の潅流液温度変化)に対して細胞内Ca^<2+>^<2+>を増加させる傾向があることが明らかとなった。さらに、ファイバー光源からの赤外線スポット照射により、細胞体や樹状突起などの刺激実験を試みたが、局所刺激では細胞内Ca^<2+>レベルに有意な変化は引き起こさなかった。照射する赤外光の強度が十分であるかどうかなど、今後の研究課題が残された。また、体内時計である視交叉上核を含むスライス培養において、一日の様々な時刻でヒスタミン刺激を試みたが、応答の大きさに有意差は無かった。体温調節や睡眠覚醒リズム調節におけるmPOAHの役割をさらに解析するために、微小ワイヤー電極東を慢性的にラットに埋め込み、この部位から観察される自発的な神経発火頻度を連続的に解析した。その結果、in vivoでのmPOAH神経活動は、覚醒レベル(頸部筋電図を指標に解析)と非常に高い相関を示した。また、クロロフェニラミンの腹腔内投与は、大多数のmPOAH神経活動を抑制することも明らかとなった。 これらのことは、mPOAHの温度感受性ニューロンがヒスタミン神経の支配により、活動レベルを変化させていることを示唆している。クロロフェニラミンの経口投与には睡眠促進作用があることが報告されているので、体温と睡眠の調和的な制御のために、mPOAHが果たす役割について今後検討する必要があるものと思われる。
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