研究概要 |
再狭窄抑制剤、T細胞増殖抑制剤、抗癌剤としての薬効が注目されている薬剤ラパマイシンの哺乳動物細胞内の標的タンパク質がmammalian Target of Rapamycin (mTOR)である。mTORはアミノ酸濃度などの細胞が活発に増殖できる環境条件を感知し細胞増殖、細胞成長制御システムを司る情報伝達系の中枢分子である。 細胞増殖にはDNA複製が不可欠であり、そのためには原料となるプリンヌクレオチド、ピリミジンヌクレオチドが大量に必要となる。これらの核酸生合成はグルタミンやアスパラギン酸グリシンなどのアミノ酸を原料とし、核酸の新生にはアミノ酸が不可欠である。細胞の分裂に必要なDNAを複製するためには原料となる大量のアミノ酸を必要とすることから、我々はmTORを中枢としたアミノ酸感知-細胞成長制御系と核酸生合成系とが深く関わっているのではないかと考え、これを裏付ける分子の探索を行った。 mTOR複合体を構成するraptorおよびmLST8と相互作用する分子の中で核酸生合成に関与する分子を探索したところ、ピリミジン生合成経路において重要な役割を担っているcarbamoyl phosphate synthetase, aspartate transcarbamoylase, dihydroorotase (CAD)が見出された。 この分子はraptorおよびmLST8のWDドメインと相互作用しており、作成した抗体を用い、これらの分子との内因性の分子間相互作用を確認した。次にCAD活性測定系を構築し、アミノ酸飢餓および添加によるCADの活性の変化を調べたところ、アミノ酸飢餓においてCADの活性が有意に低下することが見出された。CADとmTORのそれぞれの活性の間の直接的な関連性を裏付ける知見は得られてはいないが、mTORの核酸生合成制御機構の関連性を示唆する成果が得られたと思われる。
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