研究課題
低酸素ストレス応答に関与する遺伝子の中に転写因子HIF (hypoxia-inducible factor;低酸素反応性因子)が報告されている。この因子は、腫瘍の血管新生に必須であるVEGF(血管内皮細胞増殖因子)を作り出し、さらには、ミトコンドリアでのエネルギー代謝に関わる多くの解糖系酵素の転写制御を行うことが知られている。HIF自体はHIF1α、HIF2α、HIF3αの3種に大きく分かれ、通常の酸素濃度(21%)ではユビキチン・プロテアソームによって分解されているが、低酸素状態ではこの分解から免れて核内に移行することにより転写因子としてさまざまな因子の誘導を惹起する。申請者芝崎らは、酵母Two Hybrid法を用いて、ヒトの心筋または脳のライブラリーから、HIF2αと相互作用を示す因子として新たにInt6を同定した。はもともと翻訳調節因子の1つであるeIF3e/p48であるが、マウス乳がん発症ウイルス(MMTV : Mouse Mammary Tumor Virus)がマウスに感染した際に9カ所の遺伝子座にintegrationされ、その箇所の標的遺伝子を破壊する。この破壊された遺伝子の6番目のintegrationサイトに当たることからInt6として命名された。MMTVの感染によりInt6はC末端の一部が欠損した、いわば恒常不活化型(dominant negative)変異体(Int6-ΔC)が生じ、乳がんを発症することが報告されている。詳細な検討の結果、Int6は直接HIF2αに結合し、ユビキチン・プロテアゾーム系を介して発現を抑制する調節因子であることが判明した。さらにint6-siRNA発現ベクターを用いて、マウス皮下に導入したところ内因性のInt6の低下によるHIF2αの発現が上昇し、著明な正常血管新生が惹起された。これは、int6-siRNAが皮下の線維芽細胞に導入され、その細胞から動脈・静脈形成に必須な因子群を誘導した結果であり、その意味で、Int6/HIF2αは正常血管新生のマスタースイッチの1っであることが明らかになった。これらの結果から、合成int6-siRNAの内、内因性Int6の発現抑制に最も効果のある配列を再度検討し、最も効果のある配列を用いて、DNA/RNAキメラ法により合成したsiRNAを、ラット下肢閉塞モデルに投与したところ、著明な血管新生と症状の改善が認められた。現在、これらの結果により、アメリカFDAのPhase I Studyに入るべく準備を進めている。また、筋ジストロフィーや心筋梗塞、骨折、皮膚潰瘍などの治療目的でも開発を進めている。
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