近年、固形がんは単一のがん細胞集団により形成されているのではなく、従来より白血病においてはその存在が示唆されてきた『がん幹細胞』とそれより分化し過剰増殖するいわゆるがん細胞によって形成されていることを示唆する報告がなされてきている。がん幹細胞は正常の臓器に存在する臓器特有の幹細胞と同様に、トランスポーターを発現して、種々の薬剤に対して耐性を示すと考えられている。このことは、がん治療におけるがん退縮後の再発機構にがん幹細胞の貢献性が高いことを示唆し、がん幹細胞をターゲットとしたがん治療法の開発の重要性が考慮される。しかし現在、がん細胞がいかなる分子機序によりがん幹細胞化するのかについては全く不明のままである。そこで本年、成体内の組織細胞と幹細胞の細胞融合のメカニズムに着目し、がん細胞と、造血幹細胞との細胞融合によるがん細胞のがん幹細胞化の可能性につき検討した。その結果、造血幹細胞とメラノーマ細胞株B16を混合した培養により、造血細胞とB16細胞が、細胞融合を生じることが判明した。また、この融合細胞は10〜10^3個をマウスに皮下注射するのみで、高頻度に腫瘍を形成することが判明した。通常のB16細胞ではこのような少数の細胞数では腫瘍形成ができないため、血液細胞と融合したB16細胞は悪性化を獲得したと考えられた。現時点では、この融合したB16細胞が造血幹細胞と同様に幹細胞マーカーを発現するということは解析されているものの、いわゆるがん幹細胞であるかどうかは不明である。今後、この融合細胞について、自己複製能や分化能といった観点から、幹細胞性について検討する。
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