アルツハイマー病神経細胞死を特異的に抑えるヒューマニン(HN)あるいはHN類似分子が細胞癌化に密接に関与するという仮説を検証するために、1)HNが発癌促進に関係することの分子レベル及び個体レベルでの直接証明、2)HNあるいはその受容体などを標的とした癌治療開発、などの研究を行った。 1.HNあるいはHN様分子が癌細胞で高発現していることの証拠およびHN様分子の同定 前年度同定した大腸癌培養細胞(Caco-2)において、HNモノクローナル抗体とクロスするサイトケラチン群に属する蛋白質は残念ながら明瞭なHN様作用を持たなかった。そこで、方針を変更し、まずマウスの正常睾丸においてHN用分子を同定し、その構造情報をもとに、これらのHN様分子が種々の癌細胞で発現しているかどうかを検討することにした。マウス正常睾丸組織に約4kDと10kDの2種類のHNポリクローナル抗体PO4とクロスする分子の発現を見いだした。現在2次元電気泳動法を用いてこれらのタンパク質の構造を明らかにしつつある。 2.発癌に関係することのin vitroでの証明 培養癌細胞(PC12細胞、ヒトBリンパ球)などの細胞に血清除去による細胞死を誘導し、HNが細胞死を抑制できるかどうかを検討したが、このような作用は確認できなかった。 3.HN transgenic mouseの作成および発癌傾向の検討 CMV promoter下にFlag tagをC末につけたHNを高発現させるベクターを作成して、これをマウスES cellsに導入して、HN transgenic mouseを作成したがHNの高発現を確認できなかったため、現在新たにHN transgenic mouseを作成中である。 4.HNの細胞膜受容体を介するシグナル伝達経路の解明 昨年度HNの細胞膜受容体がCNTFR/WSX-1/gp130であることを見いだしたが、さらにWSX-1にはalternate splicingにより細胞外に分泌されるアイソフォームsWSX-1があり、CNTFR/sWSX-1/gp130もHNの受容体として機能することを見いだした。また、下流のシグナルとしてSTAT3を介する経路以外にPI3K/Akt経路も関与することを見いだした。
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