炭疽菌は生体内侵入後、毒素によるショックや莢膜による血中での増殖により、宿主に致死的になる。増殖が始まると抗生剤療法は期待出来ないので、炭疽の病態を把握し、両病原因子の詳細な解析が必要である。両遺伝子群の発現には複雑な制御機構が関与するので、ゲノム解析から、莢膜形成に必須のcap遺伝子領域を含む約40キロベース(kb)遺伝子群の存在を確認した。多くの病原菌で数十kbのPathogenic Island(PI)が発症に関与しているので、この約40kbのcap遺伝子領域群がPIであると推定し、莢膜の発現解析を通して、炭疽性敗血症の制御法の確立のための知見を得ることを目的として本研究を実施した。初年度はPI様領域内の遺伝子の調節機能について分子レベルで検討するために、詳細な遺伝子構造解析と遺伝子再構成実験の準備を行った。発現調節は、cap領域を炭疽菌内に導入し、この株にPI領域内の種々の遺伝子を導入し、莢膜形成を指標に調節機能を調べる。即ち炭疽菌内で莢膜形成遺伝子に関して調節能を調べる再構成実験を実施する。初年度の実績を以下に示す。 1.PI様領域の遺伝子解析から制御に関わる3種類の遺伝子、geneII、geneIII、pagMが同定された。前者2つは莢膜形成の正の制御遺伝子atxAに、最後は毒素の負の制御遺伝子pagRに高い相同性があった。 2.炭疽菌内に導入するcap領域を作製するために、cap領域全体を保有するプラスミドを作製した。cap領域は以前の我々の成果で得られた莢膜形成に必須のcapA、capB、capCを含む最小領域から成る。 3.上記3種の遺伝子の塩基配列からPCR用のプライマーセットを作製して、全ての遺伝子を増幅し、プラスミド内に挿入した。 4.それぞれのプラスミドを適当な炭疽菌株内に形質導入し、次年度の莢膜形成に供する。菌株は、野生株、莢膜非形成・毒素非産生弱毒株、莢膜形成・毒素非産生弱毒株を用いた。
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