発展途上国で分離されるCytolethal distending toxin(CDT)産生性大腸菌は、EPEC(enteropathogenic E.coli)の血清型に属し、EPECに特異的な病原因子を保有することから、EPECの亜型であると考えられている。本研究では我が国におけるCDT産生性大腸菌の細菌学的性状を明らかにすることを目的として、小児下痢症患者の糞便からCDT産生性大腸菌の分離を試み、その性状を解析した。 小児下痢症患者の糞便をTSB培地にて増菌培養後、3種類のCDT、即ちcdt-IB(I)、cdt-IIB(II)、cdt-IIIB(III)を検出できる共通プライマーを用いたPCRを行った。PCR-RFLP(PCR-restriction fragment length polymorphism)にてCdtの型別を行った。増幅断片が得られた検体からcdt遺伝子陽性の菌を分離した後、大腸菌であることを確認し、血清型も調べた。さらに、DNAプローブあるいはPCR法にて下痢原性大腸菌で報告されている病原因子の保有状況を調べた。 調べた406検体中37検体でcdt遺伝子が陽性となった。PCR-RFLPによりI:22検体、II:3検体、III:9検体、さらに、型別できなかった増幅断片の塩基配列を解析することによりIV:3検体、既存のタイプに型別できないものが1検体あった。分離できた34株を同定したところ、1株を除いて大腸菌であった。最も多い血清型は、O2:HNM(11株)であり、次いでO2:H^+(2株)であった。O142の1株を除いて発展途上国で報告されているEPECの血清型に属する株はなかった。病原因子の保有状況から、典型的なEPECに属するものはなかった。発展途上国と先進国で分離されるCDT産生性大腸菌は性状が異なる事がわかった。
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