研究概要 |
【研究目的】最近のがん治療は、初期治療とともに、失われた機能の回復や再発の防止を含む、長期にわたるフォローアップの重要度が増している。本研究は、がん手術後の異なるフォローアップ体制の優劣や、これに投じる資源の妥当性を医療経済の視点から検証する方法論の開発を試みる。具体的には、患者数、生存者数ともに近年増加傾向にある代表的ながんである大腸がんを対象に、手術後フォローアップの優劣や資源投入の妥当性を判定するシステムモデルの開発を行う。 【対象と方法】大腸がんの術後ファローアップの方法を類型化し、再発形式、生存予後、患者QOL、医療費を比較するシステムモデルをMarkovモデルに準じて開発した。システムモデルのパラメータの算出には、大腸癌術後フォローアップ研究会の協力のもと、全国16施設に登録されたStage Iの結腸がん935例、直腸がん592例(観察期間5年)のデータを用い、大腸がんの手術やフォローアップ費用は2004年改定の診療報酬点数を用いた。システムモデルにこれらパラメータを投入して、大腸がん術後フォローアップの費用便益分析を実施した。 【結果と考察】結腸がん、直腸がんのフォローアップによる救命数増加は各4.0%、5.5%であり、純便益は各9,221万円、1億6,396万円、医療費減少は各768万円、1,056万円、費用と便益の差額は各3億5,943万円、1億2,735万円となる。現在の再発後生存率は、結腸がん34.8%、直腸がん28.9%であるが、経済的な効果が生じる再発後生存率は、各222.2%、80.4%である。直腸smがんは、各50.0%、81.9%、直腸mpがんは各23.3%、79.4%である。すなわち、医療経済の観点からは、結腸がんではファローアップ費用の低減が絶対条件となり、直腸がんでは再発後生存率を改善することが重要と考えられる。次年度は、システムモデルの信頼性、妥当性についての検証等を行う予定である。
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