従来ミトコンドリアゲノム異常は、神経・筋異常を来たす稀な先天的疾患であると考えられてきた。ミトコンドリアゲノムは核に比べはるかに酸化障害を受けやすい。申請者はこの10年いち早くその酸化障害修復と維持機構研究に取り組んできた。最近は、老化、糖尿病、心不全、癌などのより一般的な疾患においてミトコンドリアゲノム異常がその病態に深く関わっていることが次々と明らかになり、体細胞性の変異蓄積の重要性が再認識されている。今回癌細胞におけるミトコンドリアゲノの変異についてその診断的価値について検討を始めた。ミトコンドリアゲノムは環状DNAで1細胞当たり数百から数千コピー存在する。このようにコピーで存在するため、一部ミトコンドリアDNAに変異が生じても正常DNAと変異DNAが1細胞内に混在することになり、この状態をヘテロプラスミーと呼ぶ。一方正常型か変異型かのどちらかのみが存在する状態をホモプラスミーと呼ぶ。近年様々ながん細胞ミトコンドリアDNAで同一個体の周辺非がん部組織に見られないホモプラスミー変異が高頻度(70-80%)で見られるという報告がある。少なくとも、このホモプラスミー性の変異は細胞のクローナルな増殖を反映し腫瘍性変化のよい指標となる可能性が指摘されている。今回まず1細胞PCRでミトコンドリア遺伝子の全塩基配列決定できる検査システムを構築することを目的とし、1細胞からのミトコンドリアゲノム全領域のPCR増幅と全塩基配列決定系を確立した。一方、癌細胞におけるヘテロプラスミー性変異の頻度とその臨床的意義を明らかにすることおよび臨床応用を考えた配列決定の迅速化のため、現在DNAチップを用いた1%までのヘテロプラスミーの検出可能な測定系を検討中である。
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