我々はヒト舌上皮組織中の味覚受容体の発現と濾紙ディスク法による味覚検査の結果が類似する結果を得たことから、ヒト舌組織中に発現する7回膜貫通構造を持つ味覚受容体の発現を指標とした「新規な味覚異常検査法」を確立した(国際出願番号PCT/JP2005/012291、平成18年1月5日公開)。本検査法は、葉状乳頭組織周辺を擦過して得たサンプル中の味覚受容体遺伝子をRT-PCRによって増幅し、発現量を検討するものである。これは従来の味覚検査と異なり短時間で無痛・非観血的に採取できることから、患者への負担が少ないことが特徴である。我々はこの検査法を利用して、味覚の異常を自覚しない潜在的な味覚障害者のスクリーニング法を開発するための基礎的なデータ収集を行い、以下のような結果を得た。 1)舌痛症の患者における味覚と受容体発現について検討した。味覚障害を合併した舌痛症の患者における舌組織中の味覚受容体発現レベルについて、亜鉛製剤プロマックを投与して治療経過を追って観察した。舌痛の度合いを示すVAS値が高い時には、味覚受容体遺伝子発現はほとんどなく、舌痛が軽減しVAS値が下がるに従って味覚受容体の発現が増加し、濾紙ディスク味覚検査の結果も良好になったことから舌痛症と味覚障害は平行して改善されるという結果を得た(布川暢子他 ゴールドリボン賞受賞第50回日本口腔外科学会総会)。 2)従来から味覚と血中亜鉛濃度には相関があるといわれていた。そのため血中亜鉛濃度と舌組織中の味覚受容体遺伝子発現について検討したところ、味覚受容体遺伝子の発現が低い患者では血中亜鉛濃度が低い値を示したことから上記の「新規な味覚異常検査法」が亜鉛欠乏性味覚異常の検査法に利用できると考え特許を出願した(亜鉛欠乏性味覚異常検査法、特願2005-376717、平成17年12月27日出願)。 現在、亜鉛欠乏性味覚異常患者、舌痛症患者を中心に味覚受容体遺伝子発現を検討中である。
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