味覚の測定は従来から被験者の感覚に依存した電気味覚法と濾紙ディスク法が主に用いられてきた。この方法は電気または呈味物質による舌への刺激を、被験者から聞き取る方法である。この測定原理は単純で理解しやすいが、術者、被験者に対する時間的・精神的な負担が大きな測定法であった。 われわれは舌上皮組織を無痛・非観血的に採取し、その組織内に発現する味覚受容体遺伝子の発現をRT-PCR法によって客観的に比較検討する方法を開発し、舌痛症並びに亜鉛欠乏性味覚障害例に対して本法を施行した。舌痛症は舌の痛みを主訴とする疾患であり、舌表面に明らかな病変がないのが特徴である。本法を施行したところ舌痛症患者では味覚受容体の発現が低下が認められ、舌痛症が心因性の痛みだけとは限らない舌の組織的な疾患である可能性も考えられた。また亜鉛欠乏性味覚障害例では、血清亜鉛濃度の低下と味覚受容体発現の低下が関連しており、血清亜鉛濃度の上昇に伴い、味覚受容体の発現の増加を認める例も経験した。 この新規な味覚異常検査法(W02006/001544 A1)として2006年1月5日に国際公開され、学内の技術移転機構NUBIC(産官学連携知材センター)を介して、現在、アメリカ・欧州への国外移行準備中である。これらの結果の一部は、The expression pattern of hTAS2R in the tongue of normal and taste disordered personsとして日本味と匂学会(2006年6月)、ヒト舌の味覚受容体候補遺伝子の発現として日本基礎歯学会(2006年9月)のシンポジウムにおいて発表された。
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