研究概要 |
環境情報の体内伝達にかかわる数多くのタンパクの生理的意義について検討を重ねている.一例を挙げると魚類においても細胞の運動や移動にアクチン細胞骨格系は極めて重要である.われわれはWAVE2タンパク制御因子IRSp53について検討し,これが,WAVE2の発現自体には影響しない、がPIP3と協調してWAVE2によるArp2/3複合体を介したRac下流のアクチン重合能の最適化に重要であり,CDC42はこれに拮抗するという知見を得て,論文発表した. また胎盤の環境変動に関与するヘム蛋白質の合成調節の解析を行い、非造血系組織であるにもかかわらず造血系ホルモンであるエリスロポエチンの支配下にあること、しかも非造血系ヘム代謝系が造血系と考えられてきた転写因子によって制御されていることを報告した。 一方で、環境応答に最も関与しているものが自然免疫を含む免疫応答系である。多分化能を持つこのような細胞をクローン化することができれば、環境変動の検出にも極めて有用であるだけでなく、再生医療実現に向けても大きな意味を持つと考えられる。そこで、クローン胚由来胚性幹細胞を作製し、リンパ球を分化誘導させるのに成功した。 胚性幹細胞(ES細胞)は未来の再生医療・細胞治療のための重要なリソースであるが、他者由来のES細胞から誘導した分化細胞は免疫拒絶反応のため患者本人の治療に使用することはできない。そこで患者本人のES細胞が必要となる。本研究ではこれらの基礎実験としてマウスの体細胞より、核移植によって胚性幹細胞(クローン胚)を作製した。さらにこのクローン胚を単一の集団であるリンパ球に分化誘導させることに成功した。 今後これらのリンパ球の性状を解析することにより、再生医療・細胞治療実現のための基礎データを得ると同時に環境変動に対する生体防御系を明らかにすることができると考える。
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