[目的]本研究は、日本のがん患者に対し、ストレス脆弱性指標(24時間尿中コルチゾール量、抑うつ、コーピング)と予後の関連を前向コホート研究により検討することを目的とした。本年度は、抑うつとコーピングに焦点を当てた。 [方法]本研究では、1996年6月から1999年4月まで国立がんセンター東病院呼吸器外科で切除術を受けた非小細胞がん患者303例が対象であった。べ一スライン調査は、肺がん患者の生活習慣、医療記録、24時間蓄尿、うつ病(DSM-IVによるうつ病診断)、抑うつ-落胆(Profile of Mood States)、コーピング(Mental Adjustment to Cancer scale)による評価を行っている。2004年1月末までの追跡調査により、56例の死亡例、2例の転出を確認した。統計解析は、DSM-IVによるうつ病の無群に対する有群の相対危険度を算出した。また、抑うつ-落胆のスコアを3分割し、最小3分位群に対する他の群の相対危険度を算出した。エンドポイントは死亡とした。共変量は、性、がん診断時年齢、臨床進行度、PS、組織型、BMI、教育歴、婚姻状況、喫煙、飲酒、疾患既往歴、痛み、呼吸困難感とした。 [結果及び考察]肺がん患者の治療後3ヶ月時に評価したDSM-IVによるうつ病の有群の多変量補正相対危険度(95%信頼区間)は、2.0(0.8-6.0)と高いリスクを示したが有意な関連は示されなかった(p=0.14)。同様に、抑うつ-落胆のスコアの最大3分位群の相対危険度は、1.4(0.7-2.6)と高いリスクを示したが有意な関連は示されなかった(p trend=0.0502)。また、コーピングに関しては、下位尺度である「前向き」、「無力感-絶望感」のスコアとがん予後の関連は示されなかった。したがって、日本のがん患者におけるストレス脆弱性指標が予後に与える影響は小さいと考えられた。
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