研究概要 |
本研究の目的は現代医学で重視される〔根拠に基づいた医療〕と〔遺伝子情報に基づいた医療〕の考え方を漢方医学的診断法〔証〕の診断にあてはめることによって〔証〕の分子病態を解明することである。目的達成のため、平成17年度の研究成果は以下のとおりである。 1,「冷え」と〔痛み〕に由来する骨・関節疾患漢方薬の分子薬理機構解明 軟骨細胞の増殖・分化の重要な分子として,一酸化窒素(NO)に注目した。28種類の漢方方剤を軟骨細胞株N1511細胞に添加しNO産生誘導作用を解析した。その結果、甘草湯と桂枝丸が軟骨細胞のNO産生誘導作用を有することを発見した。 2,培養細胞を用いた関節リウマチに薬効を示すNF-κB活性化調節機構 転写因子NF-κBは、炎症性サイトカイン産生の中核を担う分子であり、関節リウマチに対する西洋薬もNF-κBを標的にしているものが多い。そこで、漢方薬の中にNF-κB活性化調節機能を有するものを探索した。マウスマクロファージ細胞株とHeLa細胞を腫瘍壊死因子(TNF)で刺激しNF-κB活性を誘導し、その作用を減弱させる漢方薬をゲルシフト法で解析した。その結果、桂枝二越婢一湯が著明な活性抑制を示し、防已黄耆湯も弱い抑制効果を有することを認めた。 3,臨床例による関節リウマチに薬効を示すNF-κB活性化調節機構 関節リウマチ患者で漢方薬治療(防已黄耆湯、〓苡仁湯、桂枝二越婢一湯、桂枝二越婢一湯加苓朮附)により臨床症状が改善した3症例の治療開始前、治療3か月後、6か月後におけるリンパ球のNF-κB活性状態をゲルシフト法にて解析した。3症例とも臨床症状が改善しCRP,IL-6,IL-18,MCP1の血中濃度低下を認めた投与3か月後において、有意なNF-κB活性低下が生じることを明らかにした。 4,cDNAマイクロアレイを用いた関節リウマチにおける「証」検証研究開始 アメリカ・リウマチ学会診断基準に当てはまる患者の中で、漢方薬治療を実施し、桂枝加ジュツ附湯のresponder 3名、non-responder 3名、越加ジュツ湯のresponder 3名、non-responder 3名の患者を識別する。現在、リンパ球よりmRNAを抽出しcDNA合成し、-80度にてストックを行っている段階である。cDNAマイクロアレイにて網羅的遺伝子発現を解析する予定である。
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