昨年度我々は、認知症モデルであるsenescence-accelerated mouse (SAM)マウスに5週齢より社会的孤独ストレスを暴露させ、経時的に情動・認知・記憶機能(活動性、疼痛閾値、不安、条件付け記憶、空間記憶)と生存率について評価した。その結果、非ストレス群に較べ、ストレス群では、24時間後の条件付け記憶の有意な減少と疼痛閾値の有意な低下を認めた。一方、活動性、不安、空間記憶に関しては有意な群間差はみられなかった。ストレスによる条件付け記憶の低下には、ストレス誘発性痛覚域値低下の関与が疑われたが、共分散分析解析によって、その可能性は否定された。さらにストレスによる条件付け記憶低下の作用機序を解明するため、条件付け記憶の神経中枢である扁桃体中心核を免疫組織化学にて分析したところ、ストレス群では神経活性の指標であるc-fos蛋白の発現が著明に減少していた。これらの結果は、認知症において慢性ストレスが、扁桃体中心核の神経活性を低下させ記憶機能障害を助長させることを示唆するものであり、この研究結果をBrain Research誌に論文発表した。 こうした研究成果を踏まえ、今年度は、SAMマウスにおけるストレスによる寿命への影響を調べたが、有意な群間差は認められなかった。また、糖尿病モデル(db/dbマウス)を用いて、孤独ストレスによる行動異常や寿命への影響についても検索したが、特記すべき知見は得られなかった。
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