研究概要 |
わが国はH.pylori感染率が非常に高いが炎症性腸疾患(IBD)患者は少ない。一方欧米ではH.pylori感染率はわが国より低いのに対してIBD発症率は非常に高い。以上の事実からH.pylori感染がIBDの発症を抑制している可能性も考えられる。そこで本研究ではSPFのCD4(+)CD45Rbhigh Tリンパ球移入マウス、IL10-KOマウスおよびDSS腸炎マウスにH.pyloriを感染させて腸炎発症におよぼす影響を検討した。H.pylori感染は生後4,8週後におこなった。なおDSS腸炎マウスはDSS投与前に感染させた。その結果これらのマウスにおいてはH.pylori感染によって腸炎の発症が明らかに軽減された。この際種々のサイトカイン産生を比較したところ、H.pylori感染マウスの腸粘膜ではIL4,TARCなどのTh2系のサイトカイン産生が増強しており、逆にIFN-γなどTh1系のサイトカイン発現は低下していた。一方CD4(+)CD45RbhighT細胞移入腸炎マウスの脾細胞からCD4(+)CD45Rbhigh Tリンパ球を採取して、同系のC57B/6,SCIDマウスに移入してH.pyloriを感染させた。その結果、H.pylori感染マウスからの細胞移入では、腸炎の発症が明らかに抑制されていた。以上の成績はH.pylori感染がIBDの発症を抑制すること、またその際H.pylori感染によるTh2サイトカインの産生誘導が関与している可能性を示している。さらにH.pyloriによる腸炎抑制にCD4(+)CD45Rbhigh分画の細胞が関与している可能性が示唆された。現在この細胞分画をさらに検討中である。
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