研究概要 |
癌におけるエピジェネティックな異常、特にDNAメチル化異常は近年盛んに研究されている分野である。Wntシグナル経路の異常は大腸癌において極めて高頻度に見られる現象である。申請者はまず、Wntおよびその受容体であるFrizzledと直接結合することでシグナルの細胞内への伝達を阻害する分泌型Frizzled関連蛋白(SFRP)遺伝子が大腸癌においてきわめて高頻度に不活化していることを発見した。現在、我々は大腸癌、胃癌をはじめとする消化器癌におけるWnt関連遺伝子の異常の解明を進めつつある。 我々は新たに、SFRPとは異なるグループに属するWnt阻害蛋白をコードするWnt inhibitory factor-1(WIF-1)遺伝子が、DNAメチル化によって不活化されることを発見した(Taniguchi H et al. Oncogene 24:7946-7952, 2005)。WIF1遺伝子は、食道癌の80%、胃癌の74%、大腸癌の82%、膵癌の75%という極めて高い頻度で不活化していた。さらに大腸腺腫の72%においてすでに発現低下を来しており、WIF1メチル化は発癌の極めて早期に生じる異常であると考えられた。また、WIF1メチル化を来した癌細胞にWIF1遺伝子を導入したところ、Wntシグナルの抑制効果および増殖抑制効果が確認された。 これらの結果から、消化器癌では複数のWntシグナル関連遺伝子が異常を来していることが明らかにされつつある。今後、これらの遺伝子異常をマーカーとして利用できるか検討を行う予定である。
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