研究概要 |
癌におけるエピジェネティックな異常、特にDNAメチル化異常は近年盛んに研究されている分野である。Wntシグナル経路の異常は大腸癌において極めて高頻度に見られる現象である。申請者はまず、Wntおよびその受容体であるFrizzledと直接結合することでシグナルの細胞内への伝達を阻害する分泌型Frizzled関連蛋白(SFRP)遺伝子が大腸癌においてきわめて高頻度に不活化していることを発見した。現在、我々は大腸癌、胃癌をはじめとする消化器癌におけるWnt関連遺伝子の異常の解明を進めつつある。 我々は新たに、SFRPファミリーとは別のWnt阻害蛋白であるDickkopf(DKK)ファミリー(DKK1,DKK2,DKK3)が、大腸癌をはじめとする消化器癌においてDNAメチル化によって不活化されていることを発見した(論文投稿中)。大腸癌におけるDKK1、DKK2、DKK3のメチル化頻度はそれぞれ12%、78%、21%、胃癌における頻度は、48%、84%、39%であり、消化管癌において高頻度にメチル化していた。また、大腸腺腫におけるDKK1、DKK2、DKK3メチル化頻度は3%、83%、24%であり、DIK遺伝子メチル化は大腸発癌の早期に発生する異常であると考えられた。また、DKK遺伝子が不活化した大腸癌細胞にDKK1、DKK2、DKK3をそれぞれ発現させたところ、増殖抑制効果が確認された。 我々のこれまでの結果から、SFRPファミリー、DKKファミリー、WIF1という3つのカテゴリーのWnt阻害タンパクが、いずれも大腸癌において主にエピジェネティックなメカニズムで不活化されていることが明らかとなった。これらの成果は大腸癌におけるWntシグナル異常のメカニズムを一層明らかにすると共に、診断・治療への応用に寄与するものと考えられる。
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