心血管系の分化に重要な役割を担うことが報告され、さらに傷害血管の平滑筋細胞に多くのNotchシグナルのリガンド・受容体の発現が誘導されることから、血管病変形成にも関与すると考えられる。本研究では、心血管系におけるNotchシグナルの標的因子HERP familyの平滑筋細胞での発現を検討し、さらに平滑筋細胞の形質変換における作用とその分子機序を検討した。バルーン傷害後の新生内膜においてHERP1が強く誘導されたが、HERP2は誘導されなかった。平滑筋分化誘導因子であるmyocardinの発現も誘導された。これと同様に、ヒト冠動脈の動脈硬化巣にHERP1、myocardinおよびSMαアクチン陽性細胞が認められ、それらがほぼ一致した。いずれの場合も合成型へと脱分化した形質をもつ平滑筋細胞での発現を示すものであり、これらの細胞ではmyocardinが誘導されているにもかかわらずその分化度は低下している。また、10T1/2細胞にmyocardinを強制発現すると、SM-MHCとSM22α発現を強力に誘導されるが、HERP1を同時に強制発現すると、その誘導が著明に抑制された。SM-MHCおよびSM22αのプロモーターを用いたレポータージーンアッセイでもmyocardinの転写活性化作用がHERP1により阻害された。次に、この転写抑制機序を検討するためにゲルシフトアッセイを行った。SRF単独ではCArG boxを含むプローブに強く結合したが、HERP1が同時に存在するとその結合が阻害された。Myocardin-SRF-CArGは複合体を形成するが、その形成もHERP1により阻害された。免疫沈降法およびGST pull-downアッセイにてSRFとHERP1の結合が認められた。クロマチン免疫沈降法により、in vivoにおいてもHERP1はSRFとSM-MHCプロモーター上のCArG boxとの結合を阻害することがわかった。以上からHERP1はSRFと結合しSRF-CArG複合体形成を阻害することでmyocardinの機能を抑制することが明らかになった。
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