Notchシグナル系は、従来から神経系や血球系の細胞分化を制御する経路として研究されていたが、血管平滑筋細胞の分化における役割はほとんど不明であった。本研究ではNotchシグナルの標的分子で心血管特異的に発現するエフェクター分子HERPがSRFと結合し、SRF-myocardin複合体形成を抑制することによって平滑筋細胞分化を抑制することを見出した。HERPの誘導は粥状硬化病変やバルーン傷害後に形成される再狭窄病変において著明に認められることから、HERPを介するメカニズムがこれらの病態における平滑筋脱分化機構の1つであると考えている。また、本研究では、は末梢血単核球において、PDGFやFGF2の存在下に14日間培養すると血管平滑筋細胞に特異的な遺伝子の発現が誘導され、この過程でNotchリガンドや受容体の発現が誘導されること、γ-セクレターゼ阻害薬(DAPT)によって血管平滑筋細胞への分化が抑制されることを見出した。この機構を詳細に解析するため、マウス間葉系幹細胞10T1/2細胞を用いて検討した結果、Notch細胞内ドメイン(NICD)は10T1/2細胞において平滑筋マーカー遺伝子の発現を誘導することを発見した。NotchリガンドJagged1を発現する線維芽細胞と10T1/2細胞との共培養にても同様の結果を得た。筋芽細胞C2C12細胞においてもNotchシグナルで血管平滑筋細胞遺伝子の発現が誘導されたが、血管内皮細胞や3T3線維芽細胞では誘導されなかった。私たちの研究結果は、Notch経路は間葉系細胞において血管平滑筋細胞への分化を誘導すること、平滑筋ミオシン重鎖や平滑筋a-アクチンプロモターにはNotchによって活性化される転写因子RBP-Jkの結合部位があり、血管平滑筋特異的遺伝子自体がNotchシグナルの直接の標的であることを示している。したがって、末梢血単核球が血管壁にて血管平滑筋細胞に分化するメカニズムとしてNotchシグナルが重要であろうと考えている。
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