心筋細胞は出生と同時に分裂能力を喪失するため、心不全の根本的治療には心筋細胞の再生療法が必須である。カニクイザルES細胞はヒトES細胞と極めて類似した性質を示し、本研究は、臨床応用に向けた心血管再生医療の有効性、安全性の検討に大きく寄与すると考えられる。我々は、カニクイザル未分化ES細胞から胚様体を形成して心筋細胞分化を誘導するシステムを確立したが、今回、血管内皮成長因子受容体(VEGF-R2)をマーカーとして、心筋前駆細胞を純化する系を確立した。 カニクイザル未分化ES細胞は、マウス胚性繊維芽細胞のフィーダー上で、20%非血清培地を用いて培養した。以後、全ての培養操作で非血清培地のみを使用した。培養4日目のES細胞のコロニーをトリプシンで解離し、ゼラチンコートした培養皿でフィーダー細胞を除去後、カニクイザルES細胞コロニーのみをペトリ皿で浮遊培養して胚様体を形成した。初日から5日目まで2日毎に培養液を交換し、形成7日目以降における胚様体細胞の分化効率を、抗体標識とフローサイトメトリーで評価した。解離した胚様体の細胞を未分化マーカーTRA-I-81抗体およびVEGF-R2抗体で標識し、未分化率とVEGF-R2発現率を、時間軸を追って測定した。形成7日目の胚様体では45%の細胞が未分化状態を維持していたが、その割合は9日目で35%、10日目で25%に減少し、11日目以降では大部分のES細胞で未分化マーカーの発現が消失した。一方、VEGF-R2は10日目まで30〜40%の細胞で発現していたが、11日目以降では急激に発現が減少した。分化して後もVEGF-R2を発現している細胞の割合は、7〜10日目の胚様体全細胞の約20%であった。この分画は心血管前駆細胞を含むと考えられ、また、未分化細胞とは異なり移植後に奇形腫を形成する可能性も低いと考えられる。
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