現在、末期腎不全により、透析療法に至っている患者数は、全国で23万人を越え、今後、糖尿病性腎症の増加、高齢化に伴う腎硬化症の増加し、さらに透析療法導入患者の増加が予想され、社会医学的な医療費の面からも、抜本的対策が急務である。進行性腎障害の特徴である荒廃してゆく腎組織を回復させるためには、腎細胞の再生をはかることにより、腎組織と腎機能の回復を期待することができる。 そこで、腎ネフロンのなかで、腎糸球体及び、尿細管細胞の再生を検討することにより、進行性腎障害の進行を阻止することと、腎機能の回復を目的とする。マウスES細胞を原基として尿細管細胞の分化誘導を試みるとともに、間質硬化にいたった尿細管をin situで再生することを試みる。ES細胞からは、心筋細胞や、造血細胞などへの分化の報告はあるが、腎細胞への分化の試みは未だない。申請者らは、マウスES細胞をEB(embryoid body)細胞に分化させる際、HGF(Hepato-cyte Growth Factor)および、Activinを添加すると水チャネル(Aquaporin 2)を発現し、尿細管様の構造をとることを報告しており(BBRC 2005)、世界的に見ても腎再生の分野で優位な立場にある。このことは、ES細胞から集合尿細管細胞を分化、誘導できることが、示唆され、さらに3次元培養や、尿細管への分化を方向づけたEB細胞のin vivoでの導入により、尿細管を再生できる可能性を示した。 また糸球体再生のためには、機能的に重要である上皮細胞の再生をES細胞などを用いて行っている。糸球体上皮細胞へ分化したEB細胞をネフローゼモデルなどの上皮細胞が傷害された糸球体内にin vivoで導入して、糸球体上皮細胞の再生を試みる。以上のような腎細胞の再生を目標とした本研究の遂行により、腎疾患患者への再生医学の基礎的な検討の大きな一歩となりうると考えられる。
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