研究概要 |
IgA腎症の発症・進展過程において、血清IgA1分子ヒンジ領域の糖鎖修飾不全がその病態に関与していることが明らかにされてきた。しかしIgA分子糖鎖修飾不全の検出は、血清からのIgAの分離精製、蛋白分解酵素を用いたヒンジ領域の分離精製、MALDI-TOF型質量分析装置による解析など、きわめて複雑なステップを要することから、日常臨床においてIgA腎症を疑う患者全てにスクリーニングとして、あるいは経過観察などの目的で行うことは、現状では困難である。しかし、糖鎖修飾に異常をもつIgA分子が様々な病態に関与していることは明らかであり、これを経時的に、かつ定量性をもって測定できれば、病態解析のみならず、診断治療にも極めて有用である。本研究は、血清よりIgAを分離精製する工程を経ず、簡便かつ迅速な方法で糖鎖修飾不全をもつIgAを検出・定量する方法を開発することを目的として開始した。 IgAのFc領域を特異的に認識するペプチドとして、Streptococcal IgA-binding peptide(SAP)が報告された(The Journal of lmmunology,2002,169:1357-1364)。これを用いて、以下のような操作で糖鎖修飾不全を有するIgAを定量的に検出する方法を考案し、有用性を実証した。SAPをプレートに固相化し、これに検体となる血清を反応させる。結合した血清IgAに対し、ガラクトースやシアル酸が欠失した際に露出する、ヒンジ領域のGalNAcやFc部のManと反応するレクチン(SBA,ConAなど)と反応させる。このレクチンはあらかじめビオチン化されているものを用いるため、その検出はペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンにより可能である。高感度の化学発光検出系により、その発光強度からGalNAcやManなどを露出したIgAを定量的に評価することができる。本年度は、少数例の検体を用いてこの測定系における諸条件の設定を行い、VVレクチンが最も有用であることを報告した。
|