IgA腎症の発症・進展過程において、血清IgA1分子ヒンジ領域の糖鎖修飾不全がその病態に関与していることが明らかにされてきた。しかしIgA分子糖鎖修飾不全の検出は、血清からのIgAの分離精製、蛋白分解酵素を用いたヒンジ領域の分離精製、MALDI-TOF型質量分析装置による解析など、きわめて複雑なステップを要することから、日常臨床においてIgA腎症を疑う患者全てにスクリーニングとして、あるいは経過観察などの目的で行うことは、今まで困難であった。しかし、糖鎖修飾異常をもつIgA分子が様々な病態に関与していることは明らかであり、これを経時的に、かつ定量性をもって測定できれば、病態解析のみならず、診断治療にも極めて有用である。私共は、血清からIgAを分離精製する工程を経ず、簡便かつ迅速な方法で糖鎖修飾不全をもつIgAを検出・定量する方法を開発することを目的として、本研究を開始した。私共が考案した方法により、簡便・迅速に半定量的にIgA糖鎖異常が検出されることが分かり、特許出願した(新潟大学、特願2005-206461)。 IgA腎症患者では扁桃摘出+副腎皮質ステロイドパルス療法が有効であり、70%以上の寛解率が得られることが知られている。私共は、この治療後の患者血清を経時的に保存し、本法にて糖鎖不全を測定した。結果、一部の症例で、治療後の尿所見の改善と糖鎖不全の低下に明らかな相関を認めた。しかし、全例にこの関連がみられるわけではなく、その理由は現在のところ不明である。糖鎖不全が遺伝的な要素によるものである可能性もあり、この点については今後の臨床遺伝学的な解析が必要である。
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