我々は、本来細胞核内において機能する細胞周期阻害分子p21を、単球に分化した細胞において細胞質に保持する分子としてBRAP2を同定した。BRAP2は、乳がん抑制遺伝子BRCA1の核移行シグナルに結合する分子としてクローニングされ、その細胞内局在は主に細胞質である。p21の核移行シグナルにBRAP2分子が結合することにより核内移行を抑制し、p21を細胞質に保持していることを明らかにした。BRAP2分子はこのように本来核において機能する分子を細胞質に保持することにより、核内での分子の機能を不活化したり、あるいは細胞質において新たな機能を持たせることのできる分子と考えられる。そこで、BRAP2のさらなる機能を明らかにすべく、遺伝子ターゲティングを計画した。 129J系のES細胞を用いて遺伝子ターゲティングを行うため、公開されているB6系マウスのゲノム情報を下にPCR用のプライマーを作製し、129系ES細胞のDNAを鋳型として、マウス染色体5番に存在する129J系のbrap2遺伝子の一部をクローニングした。さらに、染色体DNA上のbrap2の構造解析を行い、ターゲティングベクターの設計および作製をした。ES細胞をフィーダー細胞存在下で培養し、制限酵素消化により直鎖状化したターゲティングベクターをエレクトロポレーションにより導入した。G418添加ES細胞培養液を用いたpositive selectionにより、数個のES細胞クローンを得た。サザンブロットにより相同組換え変異体が少なくとも2個得られたことを確認した。 今後、これらES細胞を用いて、ノックアウトマウスの作製を試みる予定である。また、ターゲティングしたES細胞を用いて細胞レベルでBRAP2の機能を解析する。我々がヒトのBRAP2に対して作製した抗体を用いて、マウスの組織やどの細胞系列でBrap2の発現が見られるか検討する。
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