DNAメチル化を始めエピジェネティックな変化は発がん過程に密接に関与しており、多くの癌抑制遺伝子が高メチル化により発現抑制されるだけでなく、低メチル化は癌遺伝子の異所性発現と関連している。エピジェネティックな変化は可逆性である点が大きな特徴であり、がんに対する治療上、優れた標的であることが予測される。新たながん治療標的療法を開発する目的で抗サイレンシング効果を有する小分子化合物の同定を試みた。レトロウイルスベクター内にレポーター遺伝子を組み込み、転写抑制(サイレンシング)が起こった細胞株(K562)を用いて、サイレンシングを解除する化合物をスクリーニングできる系を確立した。この系を用いて核酸系化合物をスクリーニングしハロゲン基を有する核酸系化合物が抗サイレンシング効果を有することを見出した。これらの化合物はDNAメチル化に影響を与えずレポーター遺伝子の転写抑制を解除していた。また高メチル化により転写抑制されている内在性遺伝子の転写も回復させ同様にDNAメチル化には変化を認めなかった。抗サイレンシング作用の機序を解析するためにクロマチン免疫沈降法を用いてヒストン修飾を解析したところヒストンH3のアセチル化が亢進しリジン9のメチル化が減少していることが示された。この結果よりハロゲン化チミジン化合物はDNAメチル化に影響を与えずヒストン修飾を転写活性型へ変換することによって転写抑制を解除していることが明らかとなり、新たな抗サイレンシング作用が示された。
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