研究概要 |
全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩な自己抗体の産生を特徴とする全身性自己免疫疾患である。精神症状はSLEの重篤な合併症であるが、その発症機序は不明である。本研究はSLE患者の精神症状が総合失調症に類似することに着目し、「SLEの精神症状は総合失調症に重要なモノアミン系を変調させる自己抗体により発症する」との仮説を立て、SLE患者におけるドーパミンレセプター(DR)1に対する自己抗体の存在および機能を検討した。 DR1に対する自己抗体の検出をDR1 transfectantを抗原として検出を試みたがCOS7に反応する血清がSLE患者,健常人の2-4割に認められ、特異抗体の検出はできなかった。そこで、DRの細胞外ドメインの合成ペプチドを抗原とするEIAを作成し、検討をおこなった。SLE患者ではDR1第1細胞外ループに対する抗体値は、0.36土0.57(OD450mean±2SD)と健常人0.15±0.36に比し高く、特に精神症状を示した患者は0.43+0.77と高かった。健常人のmean±2SDをカットオフとした場合、6/55(10.9%)で陽性であり、そのうちの5例(83%)が精神症状を示しており、その割合は陰性の17/49(34%)に比し有意に高かった。RA患者では全例陰性であった。なお、DR1第2細胞外ループに対する抗体は一部の患者に認められたが、精神症状との関係は認められなかった。 次にSLE患者血清のドーパミン刺激に及ぼす影響を検討するためにCOS7にDR1とc-AMP responsive reporter遺伝子を導入し検討した。精神症状を伴う患者血清はドーパミン非添加状態でc-AMP産生を促した(FCS添加群に対するルシフェラーゼ活性比;精神症状(+):1.21±0.19,精神症状(一):1.15±0.20,健常人1.17±0.16)。さらに活性比が健常人のmean+2SDを超える3例は全例精神症状を示していた。なお、精神症状を伴う患者血清添加状態では、ドーパミン刺激に伴うc-AMP産生が伴わない患者血清添加に比して低下していた。 以上より、SLEの精神症状はドーパミン系を変調させるDRに対する自己抗体がSLEの精神症状の発症に関与する可能性が明らかにされた。
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