平成17年度は、前年度までに作製した各種腸管感染ウィルスに対する抗体ミルクに関して、宿主免疫応答における有用性を中心に研究を進めた。これまでの研究結果より、抗体ミルクは高い中和抗体価を有し、スキムミルク状の粉末体でもその機能は保持されていることが判明している。抗体ミルクの生体への作用について解析するため、免疫した7種のエンテロウィルスの中でマウスに感受性のあるCVB3を用いて、腸管粘膜免疫誘導における抗体ミルクの作用機序およびi-IELの機能について検討した。予め抗体ミルクを経口投与したC3H/HeN幼若マウスにCVB3を経口感染させ、ウィルス感染後経時的に腸管を初めとする主要臓器中におけるウィルスを病理組織学的手法および分子生物学的手法を用いて検出した。陰性対照ミルクを投与したマウスにおいては、CVB3感染後経時的にウィルスの感染像が認められたのに対し、抗体ミルクを投与したマウスにおいては標的臓器におけるウィルス感染像ならびにRNAレベルでのウィルスは検出されなかった。さらに抗体ミルク投与マウスにおいてCD4陽性T細胞の増加とさらにCD25分子の発現増強が観察された。また、妊娠親雌マウスに抗体ミルクを与え、同仔マウス幼若時にCVB3感染を同様に行った場合においても、ウィルス感染抵抗性の増強が認められた。近年になり、CD25陽性T細胞の一部は制御型T細胞として注目を集めており、抗体ミルクによる宿主の免疫賦活効果が推察された。また、CD4陽性CD25陽性T細胞を単離し、ウィルス抗原刺激に対する応答性を解析したところ、IL-2およびIFN-γの著しい産生増強が認められ、抗体ミルク投与による宿主免疫応答の亢進が示唆された。一方、異種蛋白による免疫応答が惹起されたことも示唆されたが、非免疫ウシ由来の陰性ミルクではそのような応答は認められなかった。さらに、抗体ミルクを酵素処理した場合にも同様の免疫賦活傾向が観察され、FCRを介した非特異的な免疫応答よりはむしろ抗体ミルク成分中に免疫賦活因子が存在する可能性が推測された。等電点電気泳動により、抗体分子以外に40kD以下のタンパク質でpH7付近に活性化分子が存在することが判明し、中和抗体と活性化物質の相乗作用により、腸管免疫機構の機能亢進が行われているものと推察され、小児腸管ウィルス感染症に対する抗体ミルクの有用性が示唆された。
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