[目的]古典型フェニルケトン尿症(PKU)をモデルに、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子治療法を開発している。今年度は、これまでの基礎検討に基づき、治療用遺伝子であるフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)遺伝子を搭載したAAVベクターをPKUモデルマウスに投与して、AAV8型キャプシド、および自己相補型ゲノムの採用による効率改善を解析した。[結果](1)成体PKUマウスにおいて、対照のAAV5/PAHは、雄PKUマウスでは1×10^<13>particles(pc)以上で長期間、雌PKUマウスでは1×10^<14>pcで一過性に血中フェニルアラニン(Phe)を正常化した。これに対しAAV8/PAHは、雄では1×10^<12>pcで長期間、雌では1×10^<14>pcで一過性にPheを正常化した。すなわち、AAV8はAAV5に比べ10倍以上効率が高かった。(2)自己相補型AAV8/PAHは、雄では1×10^<11>pcでPheを正常化した。雌では1×10^<12>pcで正常化、1×10^<11>pcでも長期間Pheを治療域に低下させた。ゲノムの自己相補型化による効率改善も10倍以上だつた。(3)新生仔PKUマウスに自己相補型AAV8/PAHベクターを投与した。肝への5×10^<11> pc直接注入ではPheの低下は見られなかった。2×10^<12>pc静注後1-2ヶ月は血中Pheの低下傾向が見られたが(無治療個体の20mg/dL以上に対し15mg/dL程度)、それ以降は無治療レベルになった。[考察]AAV8型キャプシドと自己相補型ゲノムの組合せにより、成体PKUマウスに対しては、従来型AAV5ベクターに比べて100倍以上の効率改善を達成し、これまで治療の困難だつた雌でも十分な効果が得られた。しかし新生仔マウスにおいては有意な治療効果が得られず、さらなるベクター改良が必要と考えられた。
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