環境放射線あるいは医療放射線によるヒト胎内被ばくで問題になるのは精神遅滞や脳の発達障害である。その原因のひとつは胎児の脳は放射線に最も感受性が高い器官であり、脳皮質の発生過程の神経細胞死と神経細胞の遊走障害と考えられる。しかし、神経細胞の遊走障害の分子機構、特に神経細胞遊走障害と脳皮質層状構造の形成と神経細胞遊走の役割を果たしているCajal-Retzius(CR)細胞の関連についてはまだ解明されてない。平成18年度はmGluR2遺伝子のプロモーターにGFP発現遺伝子を組み込んでいたトランスジェニックマウスを用いて、放射線による大脳皮質形成障害、神経細胞遊走異常に関して免疫組織化学的な検索を行った。妊娠13日のマウスに1.5GyのX線を照射し、神経細胞の遊走を調べるため妊娠15日にブロモデオキシウリジン(BrdU)30mg/kgを母体に腹腔内投与した。照射6時間後及び生後2日、8週に胎仔の大脳を採取し、固定後、脳の横断切片を作製した。HE染色あるいは抗BrdU、抗midkineと抗CR-50抗体を用いた免疫組織化学染色により脳皮質層状構造、異なるタイプの神経細胞の配列、及びBrdU標識神経細胞遊走・分布を観察した。放射線照射した脳では異常な大脳皮質層が形成され、多くの標識細胞は皮質原基の下部に滞留していた。また大脳皮質I層にあるCR細胞は減少していた。このことから、放射線により誘発された脳の構築発生異常は神経細胞遊走異常によることが明らかになった。この神経細胞遊走異常とCR細胞の関連実験は現在進んでいる。
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